しかしその上は白い何物かによって見えない。そこには赤岳があるようだ。2,899メートル、この合宿の最終目標である山。また足場を慎重に作りながら登る。「ザザー」小さい音を立てて雪が落ちる。やがて赤い岩肌が見えるはい松の林を通り抜けたらしい。登るにつれて両側が切り立ってきた。雪庇が1メートルぐらい出ている。ピッケルで雪庇をつくがあまり力を入れると自分も一緒に落ちてしまいそうだ。全神経を集中させて歩く一歩一歩、アイゼンを氷上に置いて慎重に登る。コルに着いて右に曲がる。風がより一段と強くなっている。目を開けていられない位冷たい。はく息が口の周りにつららを作る。風に雪が混ざっている。吹雪の一歩手前だ。小屋に着く。軽い食事をして出発する。風はさっきより一段と勢いを増し周囲が良く見えなくなってきた。道ははじめはたいしたこともなかったが、その後で傾斜が急になってきた。少し息切れがする。雪眼鏡を通して見る雪は灰色だ。小屋で食べたチョコレートとリンゴの味が口に残って唾がたまる。風は一段と強くなり雪眼鏡の内側まで凍っててよく見えない。また遠望もきかない。急傾斜のところはジグザグにルートをとる。前の人の足跡がよく見えない。 1958年8月発行の獨協新聞より抜粋
参加者
阿由葉 常盤 佐藤 清水