那須雪崩事故検証委員会の最終報告書

平成29年3月27日那須雪崩事故検証委員会の最終報告書について

平成29年3月27日に茶臼岳(那須岳)で起きた雪崩遭難事故を受けて、平成29年3月27日那須雪崩事故検証委員会から平成29年10月15日に200ページに及ぶ最終報告書が発表されました。

報告書では、事故発生の要因として高体連及び登山専門部の「計画全体のマネジメント及び危機管理意識が欠如していたこと、従来の慣行に従った低い危機管理意識のまま講習会が実施されていたこと、またそれら講習会を見過ごしていた県教育委員会のチェックや支援体制の未整備だったこと、講師等の雪崩の危険(リスク)に関する理解不足と登山リーダー及び引率教員としての「個人の資質」に欠けていたことなどをあげています。

また、連絡体制の不備と携帯すべき装備の認識不足と不備についても触れられていました。

雪崩自体の発生原因については雪崩が雪上訓練により誘発されたものか、自然発生によるものかは特定できないとし、また個人の責任については言及していません。

事故発生時の状況と対応については、携帯電話が寒さで起動しなかったり、無線機のバッテリー切れなどの通信機器管理の不備もあり、救助要請が大幅に遅延したこと、参加者全員の情報や保護者の連絡先の一覧が作成・携行されておらず、警察、消防、山岳救助隊、生徒の保護者、引率教員の家族等に誰が連絡するのかといった緊急時の連絡体制も未整備であったこと、参加者がビーコンやプローブを装備しておらず、シャベルも常に携行していなかったことにも触れています。

また、この事故を起点として同じような事故を繰り返さないためにスポーツ庁に対して同委員会は次の7項目を提言しています。

【提言1  PDCAサイクルに基づいた計画のマネジメントと危機管理の充実】

【提言2 安全確保のための県教育委員会のチェック機能の充実】

【提言3 総合的な安全への対応力の向上を目指した顧問等の研修の充実】

【提言4 高校生等の安全な登山活動を支え、推進するための国、関係機関等の支援】

【提言6 全ての関係者の心のケアの推進】

【提言7 生徒の学ぶ意欲を喚起し、事故の教訓の風化を防ぐための取組】

具体的な項目としては次のことが述べられています。(抜粋)

  • 専門家の協力を得て、講義・実習等を取り入れ、初任の登山部顧問等の研修、経験者の研修等をきめ細かにかつ継続的に実施する。
  • 高校登山部活動の指針や計画作成のガイドライン等を作成する。
  • 天気図や地形図の読み方、指導上の留意点やポイント、登山等に潜む多様な危険の理解と危機管理、準備や計画、運営のマネジメント等に関する内容について、計画的に研修を行う。
  • 国立登山研修所や日本山岳・スポーツクライミング協会等の専門機関の研修に積極的に顧問等を派遣するなど、リーダー養成に努める。
  • 県教育委員会は、ビーコンやプローブなど、救出のための装備等を整備し、必要に応じて各高校等に貸し出せるようにする。
  • 高校生等と指導者のためのハンドブック(仮称)」を編集し、定期に改訂し、活用する。
  • 部活動の外部指導員の任命、行事等において専門家の支援や助言が得られる方策を検討し、積極的に専門家の参画を進める。
  • 県教育委員会は、事故に遭遇した生徒や御遺族並びに関係教職員等の心を癒し、QOL (生活の質の向上)と安心感や活動への意欲を醸成する心のケアの充実と継続を図る。
  • 事故の教訓の風化を防ぐために、慰霊の場を設置する。
  • 空き教室等を活用し、生徒が主体となり、これまでの栃木県の登山部活動の記録、事故の記録等を展示(掲示)するとともに、部活動参加者及び関心のある生徒が登山等に関する情報の収集ができるような拠点も設置する。
  • 定期に、各加盟校の活動や調査研究等の情報交換や交流ができるような機会を設定する。       以上、報告書の概要をまとめてみました。

スポーツ庁は高校生の冬山登山は原則禁止としており、当該教育委員会を通して各校にはその旨通知が出されていると思われます。

この報告書では「冬山」は一般的には12月から2月と考えられるものの、寒冷で雪崩の危険の高い山の状態は「冬山状態」であるということを講師や引率教員は直視しなければならなかったとしているものの、提言では冬山状態での登山について原則禁止ではなく、必要な手立てを講じなければならないとしています。

しかし、今回の事故や提言を受けてスポーツ庁から新たな方針が出されるものだと思われますが(既に出ているのかも?)、教育の場においてはことさら手のかかる面倒なことは避けるべく、スポーツ庁、教育委員会、各校各レベルで「冬山状態」である登山は原則禁止になってしまうのではないかとも思われます。

ちなみに、独協高校ワンゲル部では「冬山」は4、50キロもの荷物を担いで高妻山、八ヶ岳、仙丈岳、浅間山などに登り、「春山」は高妻山、八ヶ岳、金峰山・瑞牆山、北八ヶ岳あたりに登ってきた実績がありますが、すでにいずれも1971年あたりで「冬山状態」の登山は終了しています。

茶臼岳雪崩遭難事故検証最終報告書

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