近年、里山で農家がイノシシ、サル、シカなどによる被害から守るために電気柵などを設けているのを目にしますが、里山だけでなく奥山を歩いていても当たり前のように樹木に巻かれたネットや動物柵やネットを目にします。
これは主にシカによる植物の食害から環境を守るための対策になります。近頃は尾瀬にもシカが侵入して多大なる被害を与えていることが伝えられています。
イノシシやサルは農村で農産物に被害を与えたり、都会にも出没したりと話題になっています。しかし、シカによる被害は農業被害だけにとどまらず、自然環境全体への影響が問題視されています。林野庁の報告書によれば2000年以降、サル、ノネズミ、ノウサギ、イノシシ、クマ、カモシカ、シカの害獣別森林被害統計を見ると、シカによる被害面積は被害全体の過半数を超えており、シカが森林環境に及ぼす影響が圧倒的に多いことが分かります。
シカによる植物の食害はすでに下草や樹木などが復活できる限度を超えて、各地で環境自体を大きく変えてしまっている事態になっています。
⚪︎シカの特性
反芻機能を持つシカはササやドングリ、木の葉、樹皮などを完全消化することができ、しかも1日に5kg以上の植物を食べ、特に毎年角の生え変わる必要のあるオスはそれ以上を食べる大食漢のようです。また、繁殖能力が高く、1歳の秋から妊娠できるようになり、その後毎年出産するので条件が良ければ加速度的に増えてしまうという特性を持っています。基本的には雌雄別に群れで行動しますが、用心深く、夜行性もあり運動能力も高いので簡単には防衛や捕獲することができないようです。捕獲頭数は年々確実に増えているものの、それをはるかに上回る勢いででシカが増加しているのが現状です。
⚪︎農業被害だけでなくシカが増えて困っていること
・樹皮(形成層)をぐるっと一回り食べられたり、角研ぎにより剥がされてしまうと大量の樹木が枯れてしまっている。
・シカが食べることができない植物だけが増えてしまったり、多雪で従来だと入れなかった所にまでシカが侵入して、湿原の植物や高山植物など貴重な植物が食い荒らされている。自然環境の多様性が低下してしまっている。
・一定の樹木や下草が食べられてしまうことによって関連した鳥や昆虫が減ってしまったり、逆にシカの死体や生体、糞に取り付くシデムシ、センチコガネ、ダニ、ヒルなどが増えてしまっている。
・下草や落ち葉まで食べ尽くしてしまうと、表土が流出したり乾燥が進んで土砂崩れなど斜面の崩壊やダムや道路への損傷など防災、資源確保の面でも問題が出てきている。
シカのバランスを崩した増加は動植物の多様性の低下や自然環境の破壊などを進ませる原因となっている。
⚪︎シカが増えてしまった原因・天敵となる狼がいなくなった。
・天敵となる狼がいなくなった。
・高度成長化での人工林の植樹が進み、シカの食生にあった明かるい林床の面積が増え格好の生息環境が形成された。
・明治から戦中にかけて毛皮や肉の利用による狩猟による捕獲圧が農村や社会のありようが変化したことやシカの保護政策により狩猟が制限されるなど狩猟圧が低下した。
・農村の過疎化や都市化など生活の変化にともなう農村文化自体の変化とハンターの高齢化と減少が進んだ。
・温暖化により子鹿の死亡率が減少したり、シカの活動範囲が広がった。
シカの特性や環境の変化、いろいろな社会的原因が複合的に影響して頭数抑制のバランスが崩れてしまったのがシカが急激に増えてしまった原因のようです。
近年、女性ハンターやジビエなどが話題になっていますが、バランスのとれた自然環境を保護していくためには短絡的に”シカを殺せばいい”というものではなく、適正な管理下における頭数制限にしても簡単に出来ることではなく、農村や都市の生活や構造のあり方やなども含めて継続的に考えていかなければならないことなのかもしれません。