伊藤正一著「黒部の山賊」のご紹介
「終戦の1945年、里は極度の食糧難にあえいでいた。あちこちに行き倒れの姿が見られ、都会の焼け跡では毎夜ピストル強盗が横行していた。山もまた荒れ果てていた。広い北アルプスには登山者の姿はほとんど見られなかったにもかかわらず、山小屋では布団や窓ガラスまでが盗み去られていた。そして翌年7月濁小屋ではついに2人の登山者が物盗りに撲殺されるという事件まで起きたのだった。
伊藤正一はこのような世相の中、上高地西糸屋の奥原英雄氏などの仲介により戦争で持ち主をなくした三俣蓮華小屋を買い取ることになる。物理学を志していた正一は、自ら考案した新型飛行機エンジンの設計案を陸軍航空技術研究所に採用され、戦中は東京–松本間を行き来しながら開発に没頭していた。しかし、敗戦によりその方面の研究の道は事実上潰えてしまう。
古里の松本に近い北アルプスの自然にかねてより愛着を持っていた正一は、人生の空白期間の活用法として、ある意味全く畑違いの世界の冒険に身を乗り出すことにしたのである。ところがいざ三俣小屋の視察に行こうと準備している矢先に正一は耳を疑うような噂を聞く。”三俣方面に前科30犯の凶悪犯がいて、黒部渓谷一帯を荒らしまくっている。彼は登山者や猟師を脅しては物を盗っており、昔から黒部方面での行方不明者は全て彼の手にかかって死んだものである。三俣小屋は彼らに占拠されているらしい・・・。世相が世相だけに山賊たちの噂は真実味を持って人々に伝播していった。正一は現場に乗り込む前にまずは状況を把握しようと試みるが、実態を知る者は誰もおらず、とうとう1946年夏、友人2名とともに三俣小屋に向かうことにする。そこで一行を待ち受けていたのは・・・」(「源流の記憶」プロローグから抜粋)
底本「黒部の山賊」伊藤正一 2014年 山と渓谷社刊 伊藤正一写真集 「源流の記憶」2015年 山と渓谷社刊
❇︎三俣山荘、水晶小屋、湯俣山荘、雲ノ平山荘を運営、雲ノ平への最短ルートとなる新道開発など黒部源流部山域の開発の中心的存在となった伊藤正一氏の写真展が下記の内容で現在丸の内で開催されています。(伊藤正一氏は2016年6月17日お亡くなりにな っています。)
DWV.OBの冨樫氏も写真展を観てきたと聞いてもおり、今回メールマガジンでもご紹介してみました。特に定本「黒部の山賊」がとても面白かったです。当時ベストセラーになったということでしたが、今回初めて読んでみました。
伊藤正一写真展 のご案内
会期 2019年6月28日(金)〜7月25日(木) 会場 エプサイトギャラリー(東京都千代田区丸の内3-4-1新国際ビル エプソンスクエア2F)
時間 10:00〜18:00(最終日は14:00まで) 日曜休館 入場料 無料
柳田国雄の山人を思わせる時代がつい最近まであった感があります。大町に住み山で越冬するマタギを仲間にした近代登山の変革者は技術者だった。うーん、信州のヒトはしぶとい..