早大ワンダーフォーゲルに参加して

獨協ワンダーフォーゲル部        打矢之威

K君へ

K君その後お元気ですか。僕達は昨日無事に帰京しました。君が来られなくて本当に残念でした。我々は先生方のお世話で大変楽しく有意義な団体生活というものを味わいました。それで参加しなかった君にその報告をしようというのです。早大の方は皆親切ですね。特に幹部の方にはいろいろ部の運営方針について詳しく説明していただいてこれからの僕等の部活動に非常に参考になると思っているんですよ。あの人達は表面は山男顔した風貌していますが、心の内は清い心に自然を愛し、親しんでいる立派な人達なんですね。お話を聞いていても何か自分が知らず知らずの内に啓蒙されて行くような気が感じがしました。あのような人格は一昼一夜に出来るものではなく、何年も何年も、山野を汗渉をすることによって、お互いに楽しみ、お互いに悲しみ、そしてお互いに協力しあって次第次第に形成されて来たのだと僕は考えているんです。またワンダーフォーゲルの真の目的もそこにあるような気がしているのです。僕等も毎月のように山に入り込んでいますが、まだけだ修練が足りないんですね。これからの山行にはこの経験を生かしで独協ワンゲルの名に恥じない行動していきましょう。

さて前書きが長くなりましたが、これから僕の見聞きした範囲で早大ワンダーフォーゲル部と言うものをお知らせしましょう。しかし断っておきますが、原則的にいって、大学と高校では、規模その他の面で、大きな差があるのですから、あくまでも独協ワンダーフォーゲル部の運営上の参考として君にお知らせするのです。

まず幹部の方達の部員や部に対する愛情といったものは非常なるものでした。これは如何なる社会でも同じですが、特にこのワンダーフォーゲル部と云う一つの小さな社会においては目上の者は目下の者を愛しみ、目下のものは目上を慕う様な風潮は是非゙日必要ですね。しかしこの相互の親しみも幹部部員、上級生、下級生と言うがん厳然たる一本の境界線をはさんで行なわれているものなんです。確かにこの境を無視したら部の統制は取れません。これは車中で見た事ですが、幹部も新人部員も一緒になって、ワンゲルの歌を合唱して本当に友達同士のようにその雰囲気を楽しんでいましたのに一たびこれが終わって他の事を部員に注意する時の幹部の態度は前とは打って変わった毅然たるものがありました。それから部則は全員に徹底してるように思えました。何事もリーダーの命に絶対服従なんです。如何んなに雨が降っていようとも、如何に腹が空いてもリーダーの許可なくては絶対にヤッケを着たり、食事を取ったりする事はご法度なんです。それに驚いたことには、ひどい雨中を山に登る準備として、全員でトレーニングをしましたよ。もちろん幹部も、女子部員も一緒です。僕等も参加しましたが寒かったですね。しかしこれは必要なことですね。汽車から下りてすぐに登り始めたら、忽ち体に影響しますよ。ましてや夜行なんだったら絶対に欠かせません。

それから新人部員に対する技術指導の面ですが、これには大変貫禄のある先輩が二、三人いらっしゃって、最速日ピッケその講義を一席ぶっていましたよ。僕等も、北村、皆川、太田諸先生のような経験のある指導者が控えていらっしゃるのでその点は安心していいと思います。後の技術的な進歩は無音の心掛次第です。

それから部の構成ですが、最高の責任者は部長(これは代々先生)が受け持っているようです。次に主将そしてマネージャー、各グループのリーダーがいます。以上は四年部員が原則としてなっているようです。装備係、食料係、新聞係、記録係等の諸係員は、三年部員ががっちりと組んで、下級部員の世話をしてます。いづれにしてもあの様に百五十人もの大所帯になると各人が自分の持ち場を忠実に守ると共に積極的に活動しないと部活動と言うものは成り立っていきませんね。僕等のワンダーフォーゲル部も三十人以上もいるんですから余程しっかりしないと必ず破綻が来ますよ。だが三年部員には受験と言う難関が横たわっているので、この処分の調和が難しいんです。ですから二年生にも協力してもらい、ある場合には彼等が主体となってこの有意義な部活動を推進させてもらわないと困るんです。最後に部としての装備の点ですが、さすが大学だけあって全てが完備している様です。僕等としてはとうてい何から何まで備えることは出来ませんか二、三個のキスリング、それに大型テントは欠くべからざるものだと聞いています。後は個人装備です。以上とりとめもなく書きましたが先生方も森本部長も僕等も一致した感想は、早大゙ワンダーフォーゲル部は良くまとまっていると云うことです。集合した後のゴミ屑等などのしまつ、駅や街中での整然として歩いている姿、皆円くなって合唱している光景、何をしてもてきぱきと敏速に迷惑を掛けない部員達の張り切った姿、などがこれをなしている僕の目の前を走馬灯の様に次から次へと浮かんできます。僕等の独協生のこのワンダーフォーゲル部もかくありたいものだと心から期待している次第です。

では駄筆ですがあしからず。また学校で会いましょう。


昭和30年6月10日付け「独協新聞」より転載しました。

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