「三頭山の地質と植生」

「山の自然学講座」現地研修会に参加して

2018年11月3日(文化の日)

山の自然学クラブが主催する山の自然学講座2108の「三頭山の地形と植生の観察/ブナ林の現状」をテーマとした現地研修会に参加してきました。講師は学芸大で小泉武栄先生に指導を受けた増澤直さんによるものです。増澤先生はブナを始め三頭山の地質と植生について1980年代から研究されている方です。

秋の連休ということで武蔵五日市の駅はたくさんのハイカーやサイクリストで溢れかえっていました。数馬行きのバス停には既に長い行列が出来ていました。定期便のほかに3台臨時バスを出すということでした。先に並んでいる人から順に4台に分乗して座らせ、残りの人は好きなバスに立ち席で乗り込みました。

運よく途中で降りた人がいたので途中から座わることができました。通常ならバスは数馬で乗り換えのはずですが、「都民の森」まで直通で行けました。

都民の森の駐車場で受付を済ませたところ本日の研修会の参加者は18名ということでした。

森林館へ向かう道は途中で二手に分かれます。左は階段の急登、右はスロープを上がってからトンネルをくぐります。

森林館で講師の増澤先生が待ってぃて、オリエンテーションがありました。先生は病み上がりということでまだ体が本調子ではないとのことでしたが、長靴ばきで他を圧倒するスピードで登り下っていました。

三頭山をはじめ奥多摩の山は急斜面が多いのが特徴だということでした。駐車場から続く左の山側の斜面は大石がゴロゴロとした急斜面は重力により上部から崩れてきた土砂が堆積した構造で、35度程度の安定した斜面で崖錐(がいすい)という地形ということでした。崖錐は下部ほど大きな岩が堆積するようになるということでした。通気性があり適当に保水性もあるのでトチノキ、カツラなどが好む地形だそうです。

森林館から三頭大滝に向かってチップが敷かれた道(大滝の路)を進んでいきました。

はじめに現れた露頭の岩石は中生代に形成された「砂岩」でとても硬い石だそうです。硬砂岩地域は全般的に急傾斜で、痩せた尾根と深い谷がくり返し、岩がちの険しい地形を作っているということでした。尾根筋ではイヌブナやミズナラ、モミやツガなどが自生し、谷筋ではカエデなどの樹木によって構成されているということです。

次に現れた露頭はちょっと砂岩とは様子が違っていました。目は細かいですが、表面に細かい摂理があり触るとボロボロと崩れる泥岩ということでした。三頭山の下部は砂岩や泥岩が互層ををなしているということでした。

杉などの常緑針葉樹が植林された林の中をしばらく進んで行きます。

山側がコンクリートブロックで保護された擁壁が現れます。そこは元々は谷で何らかの理由で土砂等によって埋まってしまった「埋積谷」という地形とのことでした。昔の人はそれが分かっていて、埋積谷の部分にはスギを植林し、他の部分はヒノキを植林したということです。スギは水気が多く、直根性で土質が深い所に育つ樹種で、ヒノキは土質が浅く、広がる根を持っているということから地形に基づいて樹種を選んで植栽したことが伺われるということでした。

先を行くと、落葉樹が現れ始めます。

植林エリアから自然林のエリアに入ってきました。落葉樹が綺麗に紅葉していました。三頭山のエリアは秩父多摩甲斐国立公園の中にあって特に自然が多く残されたエリアだそうです。東京都の水源涵養林ということですが、古くは江戸幕府の御林(留山)であり、その後も宮内省御料林として管理保護されてきたので、植林も進んで入るものの、自然がよく残っているということでした。また、太平洋岸では数少ないブナ林が自生している地でもあり、国立公園の中でも特別保護地域に指定されています。

ケヤキの大木です。ふだん街路樹で見られる箒を立てたような樹形とは異なるダイナミックで力強い樹形です。

ケヤキの種子はエリアによって数年ごとに異なって実るそうでする。先端の数枚の普通の葉より小さい葉にはタネが形成され、他の葉より先に枯れて落葉するのだということでした。この辺りのケヤキは今年が成り年のようだということでした。

モミやツガの大木も尾根筋に見られました。

このカエデ(イロハモミジ)は植栽されたものですが、全山紅葉が綺麗でした。

しかし、「都民の森」エリアは自然林が多く残るエリアなの、残念ながら都市公園のように整備されたために本来の自然な植栽にはなっていないようです。

三頭大滝に到着です。三頭大滝には滝を見るためだけの行き止まりの吊り橋が設置されています。

この辺りに転がっている岩石は角が多少丸まっている岩石で、水の流れの中で削られたのでなく岩石の性質上角や表面が風化しやすい火成岩の閃緑岩あるいは石英閃緑岩ということです。閃緑岩は三頭山の上部を形成している岩石のようです。しかし形成後、熱せられたマグマが下から上がってきた貫入によりためにホルンフェルスという硬い変成岩になったということでした。

ホルンフェルスの河床は硬く削られず、比較的脆い閃緑岩が削らることによって段差ができて滝が形成されたということでした。

三頭大滝から「石山の路」を少し上がった所から登山道を離れ沢沿いに上がっていきました。

上部を歩いてみると現在の穏やかな流れの脇にこんもりと高くなった所があます。これは1991年の台風によって上流から流されてきた土砂が堆積して出来たものだということでした。台風による降雨は1時間に150mmもあったということで、洪水により2mも水位が上がったということでした。

この谷川沿いにはシオジとサワグルミが自生しており、よく見るとサワグルミは沢に近い所に自生し、シオジはサワグルミより少し高い所に生えていました。シオジやサワグルミは他の樹種と違い生長が早いということですが、それは洪水などによって倒れてしまうリスクが高いためより早く成長して子孫を残そうとする生き残り作戦のためということでした。

今度は右の急な尾根を上がって行きました。はじめは足元がビチョビチョでしたが、ブスブス、そしてカサカサに変わって行きました。乾いた比較的緩やかな斜面になった所からブナの大木が所々に見られるようになるということでした。ただ、個体数はそれほど多くはありませんでした。ブナは幹肌が白っぽヌメッとした感じの樹木です。

多くのブナ林は林床に笹が茂っていることが多いそうですが、三頭山のブナ林はにはササはあまり見られません。ブナは日本海側の豪雪地帯に多く見られますが、太平洋側のブナは雪が少なく夏場乾燥しているので葉が小型化していて幹肌も寒冷地ほど白くないということでした。丹沢のブナの方が個体数は多いようです。

頂上にかけてブナの大木は見られるものの、後継となる幼木は見当たりませんでした。三頭山のブナは日本海側のブナに比べて成長が遅く樹齢250年くらいということでした。ブナの成木は尾根に集中し、幼木は谷筋に集まっているものの個体数は極めて少ないということでした。

講師の増澤先生が調べた結果では、残っている成木がそもそも少ないので基本的に実生の数は少なく加えて冬場ネズミが実生を食べてしまうことで残っていかないそうです。基本的に関東地方の気候はにブナは合わなくなっていて、いずれ消滅してしまうのではないかということでした。

急な斜面でずり落ちないようにして昼食をとりました。数年前の研修では携帯を落とした受講生があり、見つからずじまいだったそうです。

昼食後、斜面を下りて道を引き返しました。

講師の先生から見せたいものがあるからと、ムシカリ峠と見晴小屋コースの分岐を野鳥観察小屋方面に進んで行きました。観察小屋の下から左の谷を少し上がってくと苔むした大岩がゴロゴロ積み重なった場所に行き着きました。ここは氷河時代に出来た岩塊流という地形だということでした。これは氷河時代には三頭山もアルプスの山頂部ような森林限界を越えるような位置にあったという痕跡だそうです。

最後に休憩所で1991年の台風の時の写真を見せてもらいました。駐車場あたりにも洪水により大量の土砂が流されてきて1年間もの間補修が必要になったということでした。自然災害だったのか公園として不自然な開発したためなのかと当時再び問題になったとのことです。車椅子でも通れるよう、またトイレの設置にともない汚物の回収のため軽トラも通れるよう道の拡幅工事が必要ということで自然が削られ、土砂が谷に投げ捨てられたそうです。自然と親しむためにどこまで自然への負担が認められるのか考えさせられます。

あずまやから旧道を通って駐車場に戻りました。

駐車場にはバスを待つ人がたくさん並んでいました。

現地研修はこれで終了。解散の挨拶のあとバスの列に並びました。帰りのバスはなんとか座って五日市駅まで戻ることができました。(3月に登った三頭山の記録はこちらからご覧ください。)

S47年卒 手島


コースDATA

新宿 7:44発    ホリデーかきがわ号    武蔵五日市着 8:48 数馬行き 9:00    数馬 9:56    9:59    都民の森着  10:15

駐車場 森林館 大滝の路 あずまや 大滝休憩小屋 三頭大滝 石山の路 ブナ原生林 大滝休憩小屋 野鳥観察小屋 岩塊流ポイント 大滝休憩小屋 あずまや 奥多摩周遊道路 駐車場

武蔵五日市直通バス 15:30   武蔵五日市     ホリデーあきがわ号 17:21発 新宿着18:22

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