国の威信をかけたネパールの登山家チームが16日、世界第2位の高峰K2(8611メートル)の冬季登頂に初めて成功しました。
K2はカラコルム山脈にあり、登頂には高度の技術を要するとともに冬季はマイナス50度の気温と風速50mにもなる強風のために、困難かつ危険な「非常の山」と称され、標高8000メートル級の14峰の中で唯一冬季登頂が達成されていませんでした。
登頂に成功したのは数日前から登頂を目指す2つのチームが合同し、協力し合って成し遂げたものでした。
チームの一つはニルマル・プルジャ氏(37歳)が率いる6人です。プルジャ氏は2019年に8000m級14座を約半年で完全制覇していて、現在世界最高と評価されている登山家です。
もう一つのチームはミンマ・G・シェルパ氏(34歳)が率いる3人で、それにセブン・サミット・トレックス (SST) 社の公募隊チームに所属するソナ・シェルパ氏(25歳)が加わりました。
10人全員ネパール人で、プルジャ氏以外はシェルパ族出身でした。これまで多く登山隊のために荷役やサポートをしてきた地元の登山家や山岳民族出身の登山家がスポンサーやソーシャルメディア、クラウドファンディングなどで調達した資金と積み重ねてきた経験で高所登山を成功させました。
プルジャ氏は18歳で英国陸軍のグルカ兵になって6年間従軍し、その後厳しい試験をパスして英国海兵隊所属のエリート部隊である特殊舟艇部隊SBS(Special Boat Service)に所属しました。SBSは機密偵察・急襲を専門としており、SAS(特殊空挺部隊)と並んで英国最高レベルの精鋭部隊だそうです。グルカ兵はネパールの山岳民族から構成される極めて強靭とされる戦闘集団で、英国軍のスカウト部隊が現地を巡回して集めているそうです。フォークランド紛争時にはグルカ兵が攻めてきたと聞いて逃げ出すアルゼンチン部隊もあったということです。
16年間従軍した後、軍を離れてプロの高所登山家となり、「8,000m峰14座を7カ月以内にすべて登頂して世界最速記録更新を目指す」という大胆なプロジェクトを打ち立てて高所登山に挑んていくことになります。
「グルカと特殊部隊メンバーは、決して如何なる人も置き去りにしない」とトライヤル中にデスゾーンで何回ものレスキューにも加わっています。
シェルパや酸素など使えるものは何でも使い、不遜な物言いもしているので批判もされていもいますが、軍出身だけにタフで実行力が全ての新しいタイプの登山家のようです。
プルシャ氏とその支援チームはエベレスト、ローツェ、マカルーの3座をたったの2日と30分で登頂しています。昨年エベレストでの渋滞写真が話題となりましたが、プルジャ氏もこの渋滞に巻き込まれて、7時間も身動きが取れなかったそうです。投稿され拡散されたエベレストの渋滞写真もプルジャ氏が撮ったものでした。
ちなみに、今回のK2ではプルシャ氏は無酸素で登頂を果たしています。この時、純粋主義登山(酸素や他の力を借りないで登る高所登山形式)のスペイン人登山家のセルジ・ミンゴテ(Sergi Mingote)氏はベースキャンプへの下山中に転落事故で死亡しています。