いくつになっても”20歳未満” ! ?  長瀬 治

16,7歳の頃は,とかく背伸びをしオトナの真似をしたがるものだ。そして,“背伸びの小道具”に必ずといっていいほど登場するのが《煙草》である。
q 当時,所属していたワンダーフォーゲル部の部室は,そうした好奇心旺盛な同好の士?の格好の溜まり場となっていた。
q それぞれがどこからか仕入れてきたブツは,《ハイライト》に《ショートホープ》,メンソール系の《エムエフ》,はたまた新製品の《ルナ》だった。なかでも 《ハイライト》のパッケージ・デザイン(和田誠)は新鮮だった。
q その《ハイライト》をやおら掴んだ先輩の「あかいこしまきさらりとといて,しろいベッドにあおいシーツ,はいライトを消して……」なんていう当て振りに,可愛く もケタケタ笑っていた。
q そこで,プカリとやるわけだが,それほどの意気地を持ち合わせていないのだろう, 警戒心が先走り,くわえ方もどことなくぎこちがない。
q 3畳ほどの部室は,たちまち煙でモウモウとなる。おまけに,安普請な木造のため, 板壁の隙間から煙が外に漏れていた,ということに誰も気がついていなかった。
q いきなり,扉が開いた―。
q そこには,ワンゲル部の顧問でもあり生活指導部のT先生が立っていた。
q 吸いかけの煙草をもみ消してももう遅い。
q “停学処分に付す”という文字がくっきりと目に浮かぶ。駄目だ……。

q が,しばし沈黙の後,こちらの勝手な悲壮感は大きく覆される展開となった。
q 「しょうがない奴らだ。吸ってもいいとは言わないが,吸いたいんだったら,みつか らないようにやれ」と,押しの利いた声で先生はつぶやき,扉を勢いよく閉めて出て いった。
q この思いもよらぬ状況に意表をつかれた悪童たちは,押し黙ったままめいめいの吸い 殻を片付けた……。

q あれから,かれこれ二十と数年。桜がつぼみをつける頃,たまたま母校の前を通った 折り,ポンと肩を叩かれた。q

 振り向くとT先生が背を少しまるめて立っていた。思わず,くわえていた煙草を放し,後ろ手にしながら挨拶を交わした。
q 先生はその春に学校を定年退職することなどを話し,ボクは「相変わらずで,気分は 高校時代とさほど変わっていませんよ」と応え,OBを集めて退職祝いをする約束をして別れた。

昭和43年卒 長瀬 治


2003.4.19 平凡社『TOBACCO BOOK』vol.9(1994年1月13日)より転載

♪♪♪

獨協よ~い(いい)と誰いうた
高くそびゆる丘のうえ
粋(いき)な学生が住むという
一度はホレてみたいもの

♪♪
腰のカバンにすがりつき
連れてゆきゃんせ獨協へ
連れていくのはよいけれど
オンナの座る席はない

♪♪♪
座る席がないならば
せめてアナタのひざのうえ
ともに許した仲ならば
天野の校長も許すだろ

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