積丹岳事故裁判について

積丹岳遭難事故裁判について

【裁判の経緯】

2009年1月北海道の積丹岳(1255m)で遭難したスノーボーダーが警察の救助活動中に死亡に至った事故に対して、遭難者の父親を原告、救助隊の警察を被告とした損害賠償請求裁判の最高裁での判決が山岳救助のあり方に対して問題視されている。

遺族は北海道に対して8,600万円の損害賠償を求めて札幌地裁に提訴し、2011年11月19日に遭難者に8割の自己責任、道警察に2割の落ち度を認め、道警察に1,200万円の賠償を命じる判決が下りた。その後、控訴し高等裁判所で争われることになる。

2015年3月26日、高等裁判所では遭難者の過失割合が7割に下げられ、警察に対する損害賠償額が1,800万円に引き上げさせる判決が下りた。北海道は高裁判決を不服とし上告、最高裁で争われることになる。

そして2016年11月29日、最高裁は二審を支持して警察の上告を退ける決定を下し、判決が確定された。

最終的には遭難者に対しては7割の過失責任を認定し、救助活動中の事故とは言え道警に対して遭難者が死亡に至たった落ち度を3割として過失相殺し1,800万円の損害賠償を命じたわけである。

もちろん救助隊の警察官は職務上の行為であって個人対する賠償責任ではなく、あくまでも行政に対しての賠償責任を負わせたものである。民間による救助の場合であってほとんどの場合、個人が責任を負うことはないということである。


【死亡に至る事故の概要】

1月31日、遭難者はスノーボードで友人2人と入山します。遭難者は午後友人とはぐれ道に迷ってしまい、山頂付近でビバークすることになります。友人は警察にGPSで位置を知らせて救助を要請します。翌日の2月1日、早朝より北海道警察の山岳救助隊は捜索を開始します。この時、警察はGPSの位置情報を誤り、400m以上もポイントを間違えてしまったために2時間以上も別の所を捜索することになります。男性が発見されたのは正午ごろになります。救助された時、遭難者はすでに低体温症で意識も朦朧としており、救助隊は遭難者を抱えて下山を開始します。しかし、遭難者と救助隊2名は雪庇を踏み抜き、200mほど滑落します。その結果、さらに状態が悪くなった遭難者はソリに固定され、崖の上に引き上げるべく救助隊員の作業が進められます。しかし、長引く引き上げ作業で隊員は疲労し、交代のためにソリをハイマツに固定し、その場を離れることになります。その時、ソリを固定していたハイマツが折れ(実際にはザイルが抜け落ちたということが分かったようです)遭難者を乗せたソリは下方に滑落して行ってしまいます。救助隊は天候悪化で雪崩等の二次遭難の危険もあるために、捜索を断念します。翌2日の朝、救助隊は200mほど下方のソリ上で凍死している遭難者を発見することになります。


救助隊は遭難者を一旦は救助しながら帰路で事故を起こし、遭難者を見失い死亡させてしまったことになります。しかし、自ら危険な中に身を置いて必死の救助活動をした救助隊に対して賠償責任を負わせることの是非が問われる所です。冬期にスノーボードで登山するということは、ある程度危険を承知した上での入山と考えられ、事故責任ではないかとも考えられます。救助活動の成果で損害賠償が問われることになれば、救助に対して消極的になってしまう風潮を生むのではないかと心配されています。

しかし、遺族の訴えを調べてみるとまた別の側面が見えてきます。

【遭難者遺族の訴えの要旨】

原告は下記の事柄についてその是非について疑問を呈しています。

  • 低体温状態の要救助者を救助隊員が抱えて下山させたこと。
  • 警察のGPSの計測不備から捜査開始から発見まで余分な時間を要したこと。
  • 救助隊は50mのザイルは1本のみ、ピッケルも持っていたのは1名の隊員のみ、ビバーク用のツェルト、ストーブも持参していなかったということで救助隊としての装備が不備だったこと。
  • ソリのハイマツへの固定が十分ではなかったこと。
  • 要救助者のソリだけを残して隊員全員がその場を離れていたこと。
  • 滑落後ソリ跡がはっきり残っているのに滑落から30分後にはすでに捜索中止を判断したこと。

【警察側の主張】

山岳遭難救助活動は警察の任意の裁量によって行われる活動であり、出動要請を受けた山岳遭難救助活動に対して警察官は出勤し救助をしなければならない法的義務はないとの主張です。


■裁判の結果

【高等裁判所で認定された遭難者の遭難の死亡に至る落ち度】

  • 登山当日は天気が崩れる可能性が高く、遭難者はそれを認識していながら登頂を敢行した。
  • 積丹岳は天候の急変することを知っていながら天気予報を十分確認していなかった。
  • ビバークに適さない頂上付近でビバークしたこと。
  • 冬期ビバークには不十分なツェルトを使用したこと。
  • 雪庇に近い場所でビバークしたため救助隊が雪庇を踏み抜く過失を誘発した。
  • 下山方向を誤ったこと。

【高等裁判所で認定された救助隊の遭難者死亡に至る落ち度】

  • 遭難者の発見場所付近に雪庇があることを認識しながら、適切な下山方法を取らなかったこと。
  • 雪庇を踏み抜き滑落したことにより、遭難者の健康状態が著しく悪化し、その後適切にソリが引き上げられていたとしても死亡した可能性が高いこと。

私感・・・・・・・・・・・

・積雪期の救助に出向く場合に救助隊全体でピッケルを持っていた者が1名のみで、ザイルは1本だけ、ストーブもツェルトもなしでどれだけのことが出来るのか?

・意識も朦朧とした低体温症の遭難者を抱えて下山したという遭難者に対する処置はどうだったのか?

・崖下からのソリの上げ方やビレーの仕方などは適切だったのか?

など、遺族のみならず救助隊に対するいろいろな疑問が残る。全ての救助隊が高い専門性を有しているとは限らない状況であろうが、救助隊としての最低限のノウハウと技能、装備を確保すべく行政は体制を整えるべきではないか。救助隊の未熟さは要救助者の命を左右するだけでなく、救助隊自身の命も危険にさらすことに他ならない。

スキルを高め自らの安全を確保しつつ、確実で効率的に救助活動ができるよう行政は隊員の資質の向上や救助体制の確率と環境整備を図ることが求められているのではないか。裁判の結果は行政に対して救助隊と要救助者の命を守るためにどうあるべきなのか、その責任を負わせたものではないだろうか。 サイト管理人

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